〔087〕髪を切る
 
椎菜は親友を再び手に入れた。目は赤くはれていたけれど、表情は笑っていた。
 
 
今日の朝、梨華子が訪ねてきた。初めは誰だかわからなかった。髪を切ったのだ。

彼女は、失恋したといった。


彼女の中で、自分たちは絶交していないから、愚痴を聞いて欲しいと勝手に家に上がりこんだ。

理由が分からないから、絶交は認めない、と。


愚痴を聞いて欲いかったその内容は、彼の浮気のことだった。
 
「ねえ、彼がね、ま、元彼になったんだけど、浮気してたの。で、その言い分が、もう別れたからって。酷いでしょ。だから私、浮気した事がある人とは付き合わない。って、別れてきたの」
「なんで別れたか問い詰めたら、その浮気相手の人が自分が浮気相手なんだって知って身を引いたらしいんだ」
「かわいそうじゃない? その彼女」
「椎菜? 聴いてる??」
 
勝手に愚痴をぶちまける梨華子を椎菜は黙ってみていた。そして、
 
「同情なんていらない」
 
そう、呟いた。
 
「え・・・。」
 
椎菜、自嘲気味に笑って、
 
「その、浮気相手、私だよ。彼が浮気してるって、貴方と彼との写真があって知ったの。で、彼を問い詰めたら、貴方と先に付き合ってたって。だから私、彼の関係を切って・・・・・・。これで分かったでしょ。絶交した意味」
 
「それで、」
 
無感情に梨華子、聞く。
 
「聴いてなかったの? だから」
 
「まだ、好きなの?」
 
「・・・・・・・・・・・。もう、冷めた・・・」
 
「なら、絶交する意味ないでしょ」
 
「別に、そんな理由で絶交したわけじゃ・・・・」
 
「椎菜のことだもの。私が彼の話をするのを聴くのが辛いからとかいうんでしょ?」
 
「浮気したことは、いいの? 私がその相手なんだよ・・・」
 
「もう、終わったことだから」
 
沈黙。

それを破ったのは、椎菜でも、梨華子でもなかった。
玄関のチャイムが鳴ったのだ。
 
ガチャッ・・・
 
「椎菜・・・・。」
 
現れたのは、“彼”だった。
 
 
「こないだは、その・・・、ごめん。俺、気がついたんだ。お前が一番だって。だからもう一度やりなおして。あっちの彼女とは別れてきた。だから――――・・・・」
 
「ふられたの間違いでしょ!」
 
彼の瞳が、驚愕に開かれた。
 
「どうして、・・・・・梨華子が・・・・。」
 
「人の親友、たぶらかさないでよ」
 
「し、親友?!」
 
「そう、さようなら」
 
ガチャンッ・・・
 
 
「あーすっきりした。? 椎菜? どうかしたの。あ、やり直したかったとか・・・・」
 
椎菜は肩を振るわせていた。
 
「違うの。私、何であんな人が好きだったのかなって思って自分に腹が立ってたの」
 
「あ、確かに」
 
二人は、目を見合わせて笑った。泣き笑いに近い、けれど、晴れ晴れとして笑顔で。
 
 
「私も髪、切ろうかな・・・・」
 
「失恋って意味で?」
 
「そうしたら、おそろいになるじゃない」
 
「要するに、失恋?」
 
「だから、違うって」
 
「認めなさいよ」
 
「いやっ」
 
 
 
二人は、趣味や好みが合う親友だった。そしてこれからも親友だ。
 
 
 
END
 
 
椎菜と梨華子の物語が終わりました。
これで、4話目。一つの恋の物語、いかかでしたか?
彼の名前は最後まで出てこなかったな・・・・。(笑)





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