千の花束
 
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  千の花束を贈ろう
 
 
  たった一つしかないけれど それがあるだけで幸せになれる
 
  一つが幾つか集まって 十にも百にもなれば  それは
 
  そのたった一つを勝れるのだろうか 
 
 それとも たった一つであることこそが 絶対なのか
 
 けれど
 
 
 そのたった一つは 千にはなれない
 
 一つのものと 千のもの
 
  一つが希少ならばなお、千のモノを贈ろう
 
 
 
 
 
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「・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・」
 言葉がなかった。否、今の自分の心境を正確に言い表せる言葉が見つからなかった。
 
 何なんだろうか・・・・・これは・・・・・・
 
 考えて答えが出るわけではなく。

 違う。

 考えても、答えは一つで、それは、今までの苦労を水の泡と化すことを示していた。

 だから、それを認めることを理性が拒否していた。
 とはいえ、認めなければならないのも、また事実。
 理解は出来ている。でも、感情は拒絶する。
 アーチは憂鬱そうな表情で、頭上の青空を見た。
 彼女の心境とは正反対に、澄み切った綺麗な空だった。
腰につるされた中型の剣が、その動きにあわせて、カチカチと鳴った。
 
 アーチは十代後半。

 大きな青い瞳が際立つ少女。顔立ちは幼さを残しているが、四、五年後にはさぞかし美しくなりそうだ。

 軽く二つに結った長い髪は、背中の真ん中辺りまである。色素が薄く、柔らかそうな髪質だ。

 薄汚れた大きめのフード付きのコートの陰からのぞく服装は、上等な旅服。

 一見すると、身分が高いように見られがちだが、これは友人からもらったものであって、彼女が高貴の出というわけではない。
 
「めんどくさい・・・・・」
 そういうと、その場に座り込んでしまった。
「だいたい、何で、どうして、この私が、エルの言うことに従わなければならないんだ? あいつは、私の、何だ? 今度会ったらただじゃおかない。 旅費、労働力と心情的な負担による慰謝料はもちろん、絶対にこの報復はさせてもらわなければ・・・・」
 と、怒り任せに愚痴りだす。
「何が、行けば解るだ! そりゃ、判ったけどよ、これじゃあ二度手間もいいところだろ! そんなに、私をいたぶって、楽しいのか! どうかしている」
 手近の岩のかけらを無造作につかみ、握り砕く。
「これだから、二年経った今でも、“産物”は信用してはいけないものと考えられるんだ。たった一つの行動で、同胞のすべての信用を落として如何する? ま、あいつが他者を気にしているような性格ではないのは知っているけど、これでは、また『大過』が起こってしまうではないか! あいつ、一人のために・・・・。他のものがかわいそうだ」
「あいつは、数少ない、事情を知るものだから、信用したのに、あえて、こうするのか・・・・・! 思い出しただけでも腹が立つ」
 ついに、愚痴ることすら億通となる。
 忠告しておくと、これはアーチの独り言であって、聞く相手はいない。
 一人旅の人間にありがちのことだが、これは標準を明らかに逸している。
「イライラする・・・。どうして、もう・・・・、だ・・・・・・・、あー・・・・、もういいや・・・、そんなことも」
 
 
 高貴な・・・、外見的要素など、彼女の性格の前では何一つ問題にはならない。

 だからして、勘違いする人など、皆無だった。
 
 
 アーチは探し物をしていた。
 その探し物が、何なのか。大きさ、形、外見など、全く知らない。果たして、形あるものなのかどうかすら、定かではないもの。
 それを探していた。
 手がかりといえるモノは、直感で判別し、無駄足覚悟で足を運んだ。

 見つけなければならない。どんなことをしてでも。

 見つければ、見つけたことが判るはずなのだ。

 だから、これは違うらしい。
 
 “これ”とは目の前にある、大理石。
 大理石には、古代文字が彫ってあって、大半が解読不可。微かに判る言葉からは探し物なのかどうか分からなかったのだ。
 
 
 一夜明け。
 アーチは気を取り直して、調査に乗り出した。
 調査といっても、ただ、大理石に彫られた文字の解読だけだ。けれど、
 ‘だけ’と言える量ではない。
「これだと、また、町を拠点にするべきかな・・・・」
 顎に手を当て考え込む。
 ずば抜けた集中力を持つアーチにとって、昨日の怒りを心の片隅にしまいこむことなど、容易なことだ。

 その半面、調査に取り掛かってしまった今となっては、朝食をとることすら忘れている。
 
 
 
 
 
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 この星は、全土の九割が荒野に覆われていた。

 一昔前まで、人間は万単位の集まりで国として暮らしていた。

 現在は、『大過』により分断され、数十人単位の村、百人いるかどうかの町、といった具合に分散していた。
 今、アーチは、村と村との最短ルートから、大きく外れた『大過』により滅びた国のひとつにいる。
 
 
 
 
 
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 アーチにとって、エルとは不可解な人間だった。
 『大過』。

 大きな過ちと称される大戦が終結されたのは二年前。

 エルはその、“大過の産物”だ。

 本来ならば、敵として抹殺されるべき対象なのだが、最高種族に部類していたためか、外見上では人間と見分けがつかず、“産物”であることが知れ渡らなかったことが抹殺されなかった理由のひとつだろう。

 実際に、人間を殺すことを趣向としたり、食料とすることがなかったのもたしかだ。
 それでは、果たして味方か、と問われれば、アーチは間違いなく、否を告げる。しかし、敵と認識しているわけではない。
 
 
「あ、やばい」
 日が暮れていた。彼女は、夜営の準備などしていないのであった。
 
 
 あくる日。
 
「エルに一言言ってやらないとな! あ、そういえば、ユイースのいる町ってこの近くだっけ? なら、寄ってかないと、怒るからなぁ・・・。顔に似合わず、怖いし・・」
 苦虫を潰したような顔から、ふと、真顔になる。
「あれ、どっかで聞いたことあるんだけどなぁ・・・・・、何処だっけ・・・・・」
 
 そして、アーチの旅は続く。
 
 
 
 
 
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 昔の記憶。
 花束を貰った最初で最後の記憶。
 花束、というのだから、一本や二本ではなかったはずだが、何本か忘れてしまった。せっかく数えたはずなのに・・・・。
 旅立ちの時に貰った花束。
 旅立ちの日に、そこを流れる川に流してきた花束。
 二度と戻れないかもしれない場所だから。
 もう一度、帰って来る場所にしたいから。
 だから、思い出を置いて旅に出た。
 
 この村は、何十年か前に隣町から切り離されて出来た。
 隣町からすると、異端者の集まりらしいが、今では関係ない。
 村では、花束を贈ることは、旅立つものへの別れと、再び帰って来るようにとの促しの意味があった。
 その習慣は古い歌によるものだった。
 その歌を知る者は、長老各だけだろうけれど、村人は、花束を作る。
 
 
 
   花を贈ろう
 
   希望を込めて
 
   花を集めよう
 
   花束になるように
 
   帰りを待つ寂しさを、紛らわすがごとく
 
 
   思い出を送ろう
 
   心残りを作ろう
 
   旅人が、帰ってこなければならないような、枷となるように
 
 
   花など見たことも、その単語すらも知らない村だから
 
   たくさん集めて、見送ろう
 
   たくさん集めて、帰りを待とう
 
   花が千本集まるころには、旅人はきっと帰って来るだろう
 
 
   たくさんのことを見聞きし、知った旅人をひきつける何かを
 
   此処でしか体験できない花束を作り上げるのだ
 
   さあ、旅立つものに、花束を贈ろう
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
            END
 
 大変長らくお待たせしてしまった気がします!(気だけではなく、実際そうです、ごめんなさい)
 どうして、1000HITSのキリリクが、こんなにも・・・。
 今現在、2900HITSしてしまっているというのに・・・。
 本当に、申し訳ありません;;
 謝っても謝りきれないです。
 
 そんな私に、2222HITS(ゾロメ)のキリリクを与えてくださって・・・。頑張ります。ですから見捨てないでください!!
 
 
 (作品)
 どうでしたか?
 こんな駄作ですが、今私が持っている力を精一杯出し切って書かせていただきました。気に入っていただけると、嬉しいです。
 
 平成十六年十一月二十七日土曜日午前二時三分  
 
 
 
注意:)著作権は放棄しておりません。
    お持ち帰りは、キリリクをしてくださった、ちたば様のみです。
    ご了承下さい。