卒業
 
 
この時期になると思い出す。あの頃の事を。
 
本当は、自分で選んで決めなければいけなかったのに、それが分からなかったあの頃。
僕は、周りに流されていた。そんなことで、生きているといえるのだろうか。
 
あの頃、僕は何も知らなかった。
ただ、眩しくて目を細めていた。
何かが終わっては、また何かの始まりだと思っていた。
黙っていれば自然にやってきて、自然に過ぎ去っていく、日常。
繰り返される毎日。
変化のかけらも無い毎日。
 
 
 
2月の月末に僕は高校を卒業した。これで、卒業式は3度目になる。“卒業”と一言に言っても、今回の卒業は、僕自身の初めての一歩だった。
この4月から、僕は専門学校に行く。
これは初めて選んだ自分の道だった。やりたいことが見つかったから。
就職を勧める親、先生の反対を押し切って願書を出した。
僕の人生は、今までとても安全だった。
親と先生が引いてくれたレールの上をゆっくりとしたペースで進んでいた。別に反感は無かったし、これでいいと思っていた。
苦労することもないし、考えなくていい。ある程度の自由もあったから。
まあ、楽だったのも確かだ。
 
この考えに疑問を持ち出したのは、彼女とであったからだ。
‘彼女’と言っても、恋愛感情がある訳ではない。あえて言うなら準‘親友’といった所か。3年間、同じクラスだった。
彼女は、行きたい高校があって親の反対を押し切って願書を出した。けれど合格できず、第二志望の此処に来た。
このことを知った時、僕はただ、‘損な奴’と思った。
親が言った通りにしておけば、嫌な思いもしなくてすんだわけだし、駄目でも、それを決めた親や先生が悪い。
自分自身は苦しまなくてすむ。
しかし、‘後悔はしてない’と晴れ晴れとした笑顔を見たとき、初めて僕は、自分自身を省みた。
 
僕は、親の言うとおり、此処の高校を受験し、合格した。言われる通りに部活には入らず、塾に通い、学年でトップクラスの成績を維持していた。
すべてが僕の努力の証で、親はいつも自慢していた。もし、親の言うとおりにやっても駄目だったら、なんていうだろうか。判らなかった。
 
反対されてでも選んだ道が、途切れて、でも、後悔はしていない。
そんなことが出来るのだろうか。
言われたとおりに進んで、その道がわからなくなったら、親が悪い。
決めた奴が悪い。
僕は言われた通りにやったんだから、僕のせいではない。
 
ある時、はっと気がついた。
僕の人生の失敗を親のせいにして、何になる? 
親のせいでも、結局は、僕にすべて返ってくる。そんなんでいいのか?
親の言うとおり進んで、それで、何になるのか。


僕の人生は、僕のものだ!!
 
そう、気がついた。
 
 
 
 
あの頃、僕は、自分の足で自分の道を歩んでいなかった。
自分の人生と呼べる何かを持ってなかった。
 
僕は、このすべてから卒業した。ここから始まる何かは、自分の選んだ道を自分の足で歩いていく。その責任は自分にある。
そう思うと、なんだか心地よかった。大変だけど、頑張りたい。
僕は、此処で・・・・
 
 
・・・・・今を、生きたい。


 

 

 



  あとがき

 キリリク(前後賞101Hits)の”卒業”いかがでしたでしょうか。
 今の時期にあった題名で、どんなものかと考えたところ、短編小説になりました。

 こんな感じでよろしいでしょうか。
 ジュリ様?

 ジュリ様のみ、ご報告の上お持ち帰りOKです。