すべてを捨てて逃げ出したかった・・・・。
 ただそれだけだった・・・・。
 
 この世界のありとあらゆる“もの”から、束縛されない、自由な世界へと。
 
 
 
 

僕たちは旅に出た

 
「おはよう」
 君は言った。だから返す。“おはよう”と、そして付け足す。
「もう、こんにちは、の時間だけど」
 皮肉を込めて、そして笑いながら、すねて膨らむ君のほほをつねる。
「っい、い、痛い!」
 と、とぶように逃げる君。実際、跳んで僕との距離をとったんだけど。
 あ、“跳ぶ”ではなくて“飛ぶ”ね。君には羽があるから。

 僕の目には見えない時が多いけど、時に、純白のとても綺麗な羽が見えるんだ。
 君と出会うまで、僕は羽根が欲しいと思っていた。
 羽があれば、自由になれると思っていたから。
 
 実際には羽があることで、束縛される世界があった。
 空高く、自由に羽ばたける羽。

 それは、確かに地を這う生き物から見れば自由かもしれない。

 けれど、君と会った時、君は飛び疲れて、休む場所を探し彷徨っていた。
 君に手を伸ばし、休むところ与えた時、それが自由でないことを知った。
 
 羽があっても、安心して休めるところがなければ、自由なんかではない。
 
 その出会いから、何故か一緒にいることになった。
 
 
 
 

本当はもう旅に出ていた

 
 わたしは空を自由に飛んでいた。

 自由というのは飛ぶ事に関してだけ。

 飛びながら、安らかに暮らせる地上を眺め、あこがれて、けれどそこは自分を受け入れてはくれないと思っていた。
 だから、独りでいた。

 旅に出た時から。

 その前から。

 旅立つ前のことなんて、何も覚えていない。
 ただ、寂しかった。
 
 
 
 

本当の本当は、自由に旅をしていた

 
「たび?」
「そう、旅」
「何それ、ですか」
「? 旅は旅だよ」
「・・・・・・?」
 こんな会話をしたことがあった。
 君は人間ではなかったから、言葉がぎこちなかった。

 そして、知らない単語があることを知った時、だった。
「ぼく、してる??」
「・・・・・・・・・・。」
 だから、君は、僕の名前を“ぼく”と勘違いしているし、自分の名前を言わなかった。
 真実は、ないのかもしれないし、言いたくないだけかもしれない。

 これが、ただ、“なまえ”の意味がわからなかったことも考えられるんだけど。
「・た・び・。旅する。・・・・うぅ〜ん・・・・。僕の場合は、自由気ままに、好きな時に行きたいところに行く。ってことだけど。定住しない。で、わかる??」
「定住???」
「同じところに住み着かない」
「ああ」
 その時君は、笑った。と、純白の羽が見えた。それが二度目だったが、これによって、その羽は見間違え出ないことを知った。
「それ、ある。みんな、そう、だ」
 みんなとは、君の個人を指していること。これも最近わかってきた。羽を持って、休まるところを探していた、君。

 確かに、旅になるのだろう。
 部類は違うけど。
「ぼくとみんな、同じ・・・・・。誰もが、旅、しれる。してなくても、できる。おもう」
「!」
 僕の中で、何かがはじけた。

 なんだったのか、いまだにわからないけど。
 何かが、殻を打ち破って、飛び出した。
 結局、なんだったのか、わからなかったけど、心が、“そういうことなのか”という思いにいっぱいになった。
 僕は、茫然としながら、嬉しそうに舞上がり、踊る君を、ただ、眺めていた。
 
 君は、とても綺麗だった。
 
 
 
 

まだ、この旅を止めたいとは思わない

 
 僕は、何のために、何故旅立ったのか。それを君に言うつもりはない。君と出会ってしまったから。出会って変わってしまったから。
 旅に出て、知らない土地で、知らない人々に埋もれて・・・・。と覚悟していたのに。
 まだ、僕を必要と思ってくれる存在があったから。君と出会えたから。
 
 そして、教えてくれた。
 
 羽があることが自由なのではなく、旅が自由なのではなく、その、捨ててしまった当初の旅の目的が自由になる手段ではなく。

 心が自由なら、何処にいても自由なのだと。
 
 自由に空を羽ばたいていても、休まる場所が見つからなくて、苦しくて、悲しくても、こころさえ自由ならば、何者にも束縛されない心さえ持っていれば、何処にいても、自由に心は旅をしていられるのだ。
 
 君は、そのことを、その、存在自体で教えてくれた。
 
 
 
 

まだ、だけど、ね・・・・。

 
 此処にいる。
 旅に出て、本当は、まだ、旅立てていないことに気が付いた。
 否、実際には旅に出てたんだけど、それに心は伴っていなくて、結局、何処にいても同じ、孤独を味わっていた。
 休まる場所を知らず、探しながら、探すことすら諦めかけていた。
 
 そんなときだった。“ぼく”と出会ったのは・・・・。
 
 
 当初の旅の目的。それは、急がなくてもいつかはやってくる、影。
 だから、取り合えずは、この旅を辞めようとは思わない。
 
 君をひとりにしたら、何しでかすか、分からないし、心配だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END   

 

 



〜 旅 〜   あとがき
 
 いかがでしたでしょうか。何だか個性が強いキャラがでてきてて、続編が出来そうですが・・・・。
 君と僕、(わたし)、ぼくとみんな、二人称なのに代名詞がややこしい物語。
 こんな感じの物語は書くのは初めてかもしれない。好きなのになぁ・・。
 当分、活躍しそうなお二人です。
 
 ウル様、大変遅くなりました。こんな感じでいいですか?
 
 
本編は300Hits記念のキリリクです。
お持ち帰りしていいのは、ウル様だけです。他の方は、ご遠慮願います。