【7】安らぐ場所

 風で砂が舞い上がっていた。
 目に入って鬱陶しいな、と思って回りだした。
 くるくると。
 両手を垂直に広げながら。
 泣き笑いのような表情のまま。



「不必要な情報って、何だろう?」
 ふと疑問に思い、リオンは言った。
「・・・対象に関する総てだ」
 側に佇む人は、無機質な声で言う。
 彼はいつも感情を表にしない。が、リオンにとって味方であることは確かだろう。
 唯一の理解者だと思っている。
 他の人間ならば、助言せずに上に報告する。
 あるいは、“消して”から不穏分子として報告する。


 彼が味方である理由は分からない。
 知らなかった。
 考えようともしなかった。


「それが安らぎであっても?」
 その言葉が意味することを、深く考えもせず。
 リオンは問いかける。


 彼は言う。
「殺すことが安らぎか」
「違う!!」
 リオンは叫ぶ。
 回るのをやめ、真正面から彼を見据える。
 本当は殺したくなかったという言葉を飲み込みながら。
 飲み込んだ瞬間、殺したくせに、保身に走る自分が無性に許せなくなった。
「違う・・・、僕は、僕は、・・・・」
 嗚咽を漏らしながら、リオンは、自分の肩を抱いてしゃがみこむ。
「・・・・僕は」
「それ以上のことを口にするな」
 彼は、突然取り乱したリオンを見ても、相変わらず無表情に。
 淡々と言う。
「それらの情報総てが不必要だ」
「・・・どうして・・」
 リオンの瞳から涙が溢れた。
 膝に顔をうずめる。
「そう感じる心は必要ない」
「・・・・・・・・」
 リオンの肩は小刻みに震えていた。

 風が吹いて、砂が舞い上がる。
 太陽も、半分以上が沈んでしまった。
 リオンは昼間用の防寒具しか身に付けていない。

 日没から数時間。
 リオンは顔を上げた。
 彼は数時間前から変わらずに、側で佇んでいた。
 感情の高ぶりが収まったリオンは、彼の言った言葉の意味が理解できていた。
「・・・・」
 しかし、理解でることと従えることとは違う。
「・・・どうしても?」
 かすれた声で、リオンは問う。
 リオンの闇を宿した瞳には、決意という名の光があった。
「ね?」
 彼は
「忘れろ」
 リオンの決意に気が付かない。
「・・・そっか」
 言うと、リオンはくるりと反転、彼を背にした。
 背後を見せたのは信頼からか。
 背中越しに振り返りながら
「じゃ、僕は行くよ」
 宣言をした。
 軽く笑いながら。

 彼は無表情に手を伸ばし―――。



 リオンは分かっていた。
 それでも、風を探しに行きたかった。
 殺さなければならなかった理由を見つけたかった。
 見つけて、探し出したかった。
 もうこの世にはいない友の夢を叶えたかった。
 叶えなくしたのは自分だから。
 風の行方を見つけることが出来たら、何か分かる気がしたから。
 そう信じて。





 リオンは、唯一の理解者を、その手で殺した。



【8】白い花