【2】お願い

 感情を剥きだしにして、泣き叫んだ。
 理論性などは皆無だ。

 不条理な出来事。
 自分の力ではどうすることも出来ない世界。
 結末。
 望まぬ結末に対する唯一の防衛手段。

 理不尽さを感じながらも、正す手段を持たなかった。


 誰に聞いたのか、すら、覚えていない。
 行動すれば救われると思った。
 救われると信じた。
 危険を省みず、賭けた。





 森の奥深くに迷い込んだ人間は、十中八九意図的だ。
 薄暗く、不気味な雰囲気な場所に好んで進む人間は少ない。
 明るい道を選べば森の外に出られる。道に迷う前に引き返すだろう。

 迷い込んだ人間という表現は違うのかもしれない。
 知らない場所に、何かを求めて足を踏み入れた人間。
 “迷い人”には違いないが。


 モトは暗い樹海を迷うことなく歩いていた。
 知った道。
 何度も通った場所。
 薄暗く湿った場所ではあったが、木々の息吹が感じられる。
 心が研ぎ澄まされる気がする。
 風が木の葉を舞わせた。モトは視線を上げる。
 初めて来た時は、周りを見渡す余裕などなかった。




 うんざりする。
 世界は如何して変わらないのか。
 強い者が弱い者を支配する。
 弱い者は何かにすがる。
 他力本願。
 叶うわけは無いのに。
 ただ、救世主の到来を待ち望む。
 そして、都合よく去ることを暗黙に求める。
 その瞬間にしか必要とされない存在。


 そんな都合の良いモノが存在するはずが無い。
 少し考えれば分かることなのに、何故、誰も分かろうしないのだろうか。




 見上げたモトの瞳に感情はこもらない。
 ただ、淡々と、総てを軽蔑するほどに冷たく、無感情に自分の周りの世界を眺めていた。




【3】刈り取る者