〔025〕一人の夜
 
 今日は彼の誕生日だった。
 本当ならば二人でいるはずの夜。

 けれども、椎菜は一人でいた。彼が浮気をしていたから。正確には、私が浮気相手。

 それが分かったのは、昨日彼の家で、その、本当の彼女との写真を見つけてしまったから。

 彼女は梨華子だった。
 梨華子とは、学生時代からの親友だ。高校の2年の時の寮の同室だった相手。

 趣味や好みはいつも同じで、一緒にいても疲れなかった。だからいつの間にか一緒にいて、一緒に笑っていた。
 彼は私も追求に、面倒そうにいった。“梨華子と先に付き合っていた”と。
 
 だから私は、二年ぶりに再会した親友に絶交を告げた。梨華子が悪いんじゃないって分かっている。

 けれど、彼との楽しかったことを話されると、悲しくなる。今、幸せでいる梨華子を羨んでいる自分がいて、どうしようもなかった。
 もう、彼に未練が無いといったら嘘になる。けれど、そんな人だったなんで思わなかった。私と彼の関係はもう無い。

 せめて、梨華子には、彼と幸せになって欲しい。これは正直な私の気持ち。
 梨華子のため、だから、と自己正当化してみたが、本当は分かっている。
 
 これからも親友としてやっていけるか自信が無いからだ。
 
 
 だから私は、一人で彼の誕生日を祝った。
 きっと彼の部屋には、梨華子がいるだろう。
 二人が寄り添って、笑いあっている姿が目に浮かんで、いてもたっていられなくなった。
 だからどうする訳でも無く、飲めないお酒にで酔いつぶした。
 
 
 気がついたら、一人の夜は終わっていた。
 これからは、毎晩が、一人の夜だけど。
 



[082]へ続く


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