〔082〕赤い糸
 
 
久しぶりに部屋の掃除をした。そしたら、たくさんの糸くずが出てきた。
私のその中の赤い糸で遊んでいた。
 
遊びながら、心はどこか違うところにあった。

椎菜のことだ。

どうして急にこんなことになってしまったのか、分からなかった。

私のせいでも、彼女のせいでもなければ、誰のせいだというのか。
 
今日は、彼とデートの日だったが、何だか気乗りがしなかった。
でも、どうせなら、相談でもしてみようかと思った。
 
その意思決定に、何だか胸騒ぎを感じた。

嫌な予感がする。何だか、知ってはいけないこと知ろうとしているような、そんないやな感じ。
その感じを消すかのように、赤い糸を左の小指に結んでみた。

糸を伸ばしてみる。

現実の糸の先には、‘クマのぬいぐるみ’があったから、その左手の小指に結んでみようと思い立ち、挫折した。

‘クマのぬいぐるみ’には、指が無かったのだ。
八つ当たりに、指から糸を外して‘クマのぬいぐるみ’に投げつけた。

ちょうど、鼻の部分にあったって落ちた。
 
 
本当の糸の先には、誰がいるのか。
 
時間に間に合うように家を出た。風が冷たかったので、コートの襟首を立てた。
そして、空に向かって、
 
「私は、絶交なんて認めないから・・・・」
 
そう呟いた。



[087]髪を切る へ続く



戻る